フリーランス新法の取引条件明示テンプレート:Web制作の発注書とチャット文例
Web制作の外注で、フリーランス新法の取引条件の明示に書く7項目を、コピーして使える発注書のひな形とチャットの文面で示します。給付の内容の粒度、未定事項と支払期日の書き方、保守の月額契約、受ける側の頼み方まで。
Web 制作の仕事をほかのフリーランスに頼むとき、フリーランス新法の「取引条件の明示」で何を・どの形で書けば足りるのか。この記事はその問いに答えます。結論は、発注書でもチャットのメッセージでもよく、書くのは7項目(検収をしないなら6項目)です。コピーして使える Web 制作向けの発注書のひな形、決まっていないことの書き方、支払期日の書き方、チャットで送る文面を、そのまま持ち帰れる形で載せます。
対象は、コーディングやデザインを外注する側のフリーランス・小さな制作会社と、外注を受ける側の両方です。法律の個別の判断が要る場面では、記事の最後に挙げる相談先を使ってください。
結論:書くのは7項目。発注書でもチャットでもよい
取引条件の明示は、仕事を頼んだら「直ちに」、書面か電磁的方法(メール・チャットなど)で行います。口頭だけでは足りません。書く項目は公正取引委員会の規則で決まっていて、一般的な銀行振込で払う Web 制作の外注なら、下の表の7項目です。
フリーランス新法の正式な名前は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)で、2024年11月1日に施行されました。取引条件の明示は第3条第1項に定めがあり、書く事項の細目は公正取引委員会規則の第1条第1項に並んでいます。
| # | 項目 | Web 制作での書き方 |
|---|---|---|
| 1 | 発注者・受注者の名称 | 氏名か屋号。相手を特定できる符号(ハンドルネームなど)でもよい |
| 2 | 業務委託をした日 | 発注の書面・メッセージを送った日 |
| 3 | 給付の内容 | 作るもの・範囲・数量・品質。知的財産権の扱いもここに書く |
| 4 | 給付を受け取る期日(期間) | 納期。保守なら契約期間 |
| 5 | 給付を受け取る場所 | Git のリポジトリ、テスト用サーバー、共有フォルダなど |
| 6 | 検査を完了する期日 | 検収をする場合だけ。日付で書くのが確実 |
| 7 | 報酬の額と支払期日 | 税込か税抜か、実費の扱い、具体的な支払日 |
この7つのほかに、二つの場合だけ書き足す項目があります。一つは、報酬を現金の振込以外(電子記録債権や、資金移動業者の口座への支払いなど)で払う場合の、その支払方法に関する事項です。もう一つは、発注の時点で決まっていない項目がある場合の「決まっていない理由」と「決める予定の日」です(規則第1条第1項第12号)。後者は Web 制作でよく使うので、別の節で書き方を示します。
公正取引委員会の特設サイトは、明示すべき事項を「8項目」と数えています。上の7項目(報酬の額と支払期日を1項目にまとめる)に「報酬の支払方法(金銭以外で払う場合のみ)」を加えた数え方です。資料によっては報酬の額と支払期日を分けて9項目と数えるものもありますが、中身は同じです。
書面の題名は決まっていません。「発注書」でも「業務委託契約書」でも、チャットの1通のメッセージでも、7項目がそろっていれば明示になります。メールやチャットで明示したあとで、受注者から書面を求められたら、遅滞なく書面を渡す必要があります(法第3条第2項)。
一人で受けている人が外注するときも義務がある
従業員のいないフリーランスが、さらに別のフリーランスに仕事を頼むときも、取引条件の明示の義務はあります。「自分も個人だから関係ない」は通りません。
公正取引委員会の Q&A(問9)は、「『従業員を使用』していない発注事業者であっても『業務委託事業者』として3条通知による明示を行う必要があります」と書いています。たとえば、制作会社から受けた LP のうちコーディングだけを知り合いのコーダーに頼む場合、頼む側が一人で仕事をしていても第3条が掛かります。
一方で、支払期日を受け取りから60日以内にする義務(第4条)などは、特定業務委託事業者が対象です。従業員を使う個人と、役員が2人以上いるか従業員を使う法人がこれに当たります(Q&A 問2)。ここでいう「従業員を使用」は、1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ継続して31日以上雇用される見込みのある人を雇っていることを指します(Q&A 問3)。ただ、支払期日を書くこと自体は従業員の有無に関係なく必要なので、ひな形では60日以内に収まる日付を書く形にしておくのが安全です。
| 発注する側 | 取引条件の明示(第3条) | 60日以内の支払い(第4条)など |
|---|---|---|
| 従業員のいないフリーランス・一人法人 | 必要 | 対象外 |
| 従業員を使うフリーランス・制作会社(従業員がいなくても、役員が2人以上の法人を含む) | 必要 | 必要 |
受ける側が保護の対象(特定受託事業者)になるのは、従業員を使わない個人か、代表者のほかに役員がおらず従業員も使わない法人です(Q&A 問2)。相手が一人で受けているコーダーやデザイナーなら、ほぼこれに当たると考えて準備してください。
自分が元請けから受けた仕事を外注する「再委託」では、通常の項目に加えて「再委託である旨」「元委託者の名称等」「元委託業務の対価の支払期日」を明示すると、支払期日を元委託の支払期日から30日以内で定められる仕組みがあります(Q&A 問51、法第4条第3項)。制作会社から受けた案件をさらに外に出すことが多いなら、この3つをひな形に入れておくと使い回せます。
明示の不備は、実際の取り締まりで最も多い違反の一つです。公正取引委員会が2026年6月10日に公表した令和7年度(2025年度)の運用状況では、指導・勧告などの措置1,552件のうち、違反行為の類型別の延べ2,727件で、期日の支払義務違反が1,135件(41.6%)、取引条件の明示義務違反が1,126件(41.3%)でした。業種別では情報通信業が575件(37.0%)で最も多くなっています。
コピーして使える発注書のひな形(Web 制作向け)
下のひな形は、7項目と、未定事項・再委託の追記欄を Web 制作の外注向けに並べたものです。テキストのままメールやチャットに貼っても、PDF にしても使えます。[ ] の中を埋め、使わない行は消してください。
【発注書】(フリーランス・事業者間取引適正化等法 第3条の取引条件の明示)
1. 発注者 / 受注者
発注者: [氏名または屋号]
受注者: [氏名または屋号]
2. 業務委託をした日: [2026年10月20日]
3. 給付の内容
件名: [〇〇の LP コーディング]
作業の範囲: [支給のデザインカンプ(Figma)をもとにした HTML/CSS/JS の実装]
数量: [1ページ(PC・スマホのレスポンシブ)、セクション数 9]
仕様: [ブレークポイント 768px / 対応ブラウザ: Chrome・Safari・Edge・Firefox の最新版、iOS Safari の最新版]
[CMS: なし(静的 HTML)/ フォーム: 外部サービスの埋め込み]
修正: [納品後の修正 2回まで(デザインカンプとの差異の修正は回数に含めない)]
含まないもの: [画像の作成・撮影、文章の作成、サーバー設定、公開作業]
素材: [画像・フォント・文章は発注者が支給。有料素材のライセンスは発注者が保有]
知的財産権: [成果物の著作権は、報酬の支払いをもって発注者に譲渡する。
対価は下記の報酬に含む。受注者は実績として公開してよい(公開前に発注者の確認を取る)]
4. 納期: [2026年11月20日]
5. 納品場所: [発注者の GitHub リポジトリ(招待済み)の main ブランチへのプルリクエスト]
6. 検査を完了する期日: [2026年11月27日](検収をしない場合はこの行を消す)
7. 報酬の額と支払期日
報酬: [150,000円(税抜)/ 消費税 15,000円 / 合計 165,000円(税込)]
実費: [なし]
支払期日: [2026年12月31日]
支払方法: [銀行振込。振込手数料は発注者が負担する]
(未定の事項がある場合)
未定の事項: [ ]
未定の理由: [ ]
決める予定の日: [ ]
(再委託の場合)
再委託である旨: [本件は〇〇から受託した業務の一部の再委託です]
元委託者の名称: [ ]
元委託業務の対価の支払期日: [ ]
振込手数料の行は、発注者の負担に固定してください。Q&A の問78は、振込手数料を受注者に負担させて報酬から差し引くことを、合意の有無にかかわらず「報酬の減額」に当たるとしています。減額の禁止は第5条の定めで、対象は特定業務委託事業者が1か月以上(更新で1か月以上続く場合を含む)の業務委託をする場合です。従業員のいない一人の発注者や短い取引は第5条の対象外ですが、ひな形を使い回すなら、手数料は発注者が持つ形にしておくのが安全です。
ひな形の例では、11月20日の納品に対して支払期日を12月31日にしています。「月末締め、翌月末払い」に当てはめた日付で、受け取りの日を1日目として数えると42日目です(あとの節のスクリプトで確かめた値)。
Handoff の取引のひな形にも、同じ考え方で作った「取引条件の明示書」があります(https://hand-off.jp/resources/templates/freelance-terms )。Word や Google ドキュメントに写して使いたい場合はこちらが早いです。
「給付の内容」はどこまで書くか:Web 制作の粒度
給付の内容は、あとで「頼んだ・頼んでいない」が争いにならない程度に、作るもの・範囲・数量・品質を書きます。ページ数や修正回数のような数字と、「含まないもの」を書くのが要点です。
Q&A の問42は、発注の時点で委託の内容を明示したといえる程度に明らかにしていれば、あとで詳細が決まっても改めて明示し直す必要は必ずしもない、としています。ただし詳細が決まったら相手に伝えて明確にすることが望ましい、とも書いています。「サイト制作一式」だけでは、何をもって完成とするかが読めません。
Web 制作の外注で書いておきたい項目を、確認リストにしました。
| 区分 | 書くこと | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 数量 | ページ数・テンプレート数・セクション数 | 「固定ページ 6、投稿の一覧と詳細のテンプレート 各1」 |
| 環境 | ブレークポイント・対応ブラウザ | 「768px と 1024px / 各ブラウザの最新版」 |
| CMS | CMS の種類・バージョン・テーマの扱い | 「WordPress 6.x、既存テーマの子テーマで実装」 |
| 機能 | フォーム・検索・多言語・アニメーション | 「お問い合わせフォームは既存プラグインの設定まで」 |
| 修正 | 回数と、回数に数えないもの | 「2回まで。デザインとの差異の修正は含めない」 |
| テスト | 確かめる範囲 | 「上記ブラウザでの表示確認。負荷試験は含まない」 |
| 範囲外 | 含まないもの | 「原稿作成、画像加工、サーバー移転、公開後の保守」 |
| 素材 | 誰が用意し、ライセンスを誰が持つか | 「写真は発注者支給。有料フォントは発注者の契約」 |
| 知財 | 譲渡か利用許諾か、範囲、対価 | 「著作権は支払いをもって譲渡、対価は報酬に含む」 |
知的財産権の行は、空けないでください。Q&A の問81は、成果物に知的財産権が発生する場合、権利の譲渡・許諾の範囲を給付の内容の一部として明確に書く必要があるとし、権利の対価を報酬に加えずに低い額を定めると買いたたきとして問題になるおそれがあるとしています。買いたたきの禁止も第5条の定めなので、対象は特定業務委託事業者が1か月以上の業務委託をする場合です。対象外の発注者でも、権利の範囲と対価が報酬に含まれることを書いておけば、あとの食い違いを防げます。コードやデザインを納めるのが基本の Web 制作では、ほぼ毎回当てはまる話です。
譲渡にするか、利用許諾に留めるかは取引の中身で変わります。たとえば、汎用の部品やスニペットを受注者がほかの案件でも使い続けたいなら、「案件固有の部分は譲渡、汎用部品は利用許諾」のように分けて書く方法があります。どちらの形でも、対価が報酬に含まれていることを一文で書いておくと、あとで読み違いが起きにくくなります。
決まっていないことの書き方:要件定義前・ページ数未定
発注の時点で決まっていないことがあるなら、空欄にせず「決まっていない理由」と「決める予定の日」を書きます。金額が決められないなら、金額の代わりに「算定方法」を書けば足ります。
規則第1条第1項第12号は、内容が定められないことに正当な理由がある項目については、その項目を書かない代わりに、定められない理由と、定める予定の日を明示するよう求めています。決まったら、その時点で直ちにその項目を明示します。Web 制作では、要件定義の前に動き出す場合や、ページ数が原稿待ちで決まらない場合がこれに当たります。
規則第1条第3項は、報酬の具体的な金額を定めることが難しいやむを得ない事情があるときは、金額を決めることになる算定方法を示せば足りる、としています。Web 制作では次のような書き方が使えます。
| 場面 | 足りない書き方 | 書き直した例 |
|---|---|---|
| ページ数が未定 | 「金額は別途相談」 | 「下層ページ 1ページ 20,000円(税抜)× 確定したページ数。ページ数は原稿の確定(2026年11月5日予定)で決める」 |
| 作業量が読めない改修 | 「工数に応じて」 | 「時間単価 4,000円(税抜)× 作業時間の実績。上限 20時間。上限を超える前に連絡して合意する」 |
| 要件定義の前 | 「詳細は追って」 | 「未定の事項: 実装する機能の範囲。理由: 要件定義が終わっていないため。決める予定の日: 2026年11月10日」 |
| 諸費用が読めない | 「経費は別途」だけ | 「報酬 300,000円(税込)。ただし有料プラグインの購入費の扱いは、要件定義のあと別途協議のうえ定める」 |
表の金額は書き方を示すための例で、相場を示すものではありません。単価は、受ける側と頼む側の合意で決まります。
最後の行の「別途協議」は、Q&A の問39が例として認めている書き方に沿ったものです。ただし問39は、協議できない事情がなくなったら速やかに協議して決め、決まった内容を直ちに明示するよう求めています。「別途協議」と書いたまま納品まで進めないようにしてください。
支払期日の書き方:「〇日以内」では足りない
支払期日は「2026年12月31日」のように、日付で特定できる形で書きます。月単位で締める取引なら「毎月末日締め、翌月末日払い」も使えます。
公正取引委員会の特設サイトは、「翌月10日まで」や「〇日以内」といった書き方では具体的な支払日を特定できず、支払期日を定めたことにならないとしています。「納品後30日以内」「検収後すみやかに」も、同じ理由で避けたほうが安全です。
| 書き方 | 判断 |
|---|---|
| 2026年12月31日 | 日付で特定できる |
| 毎月末日締め、翌月末日払い | 月単位の締切制度として使える(Q&A 問48) |
| 納品後30日以内 | 具体的な支払日を特定できない |
| 翌月10日まで | 具体的な支払日を特定できない |
| 検収後すみやかに | 日付が書かれていない |
従業員を使う発注者は、受け取った日から数えて60日以内(受け取った日を1日目に数える。Q&A 問45)のできるだけ短い期間で支払期日を定める必要があります。数え始めは受け取った日で、検収が終わった日ではありません。支払期日を定めなかったときは、受け取った日が支払期日とみなされます(法第4条第2項)。
「月末締め、翌月末払い」は、31日の月をまたぐと受け取りの日から数えて61〜62日目になることがあります。Q&A の問48は、月単位の締切制度については「60日以内」を「2か月以内」として運用し、問題としないとしています。実際の日数を確かめたい人のために、受け取りの日から支払日と日数を出す Node.js のスクリプトを置きます(Node.js の v18 以降を想定)。
// payday.js
// 納品日(受領日)から支払日を出し、受領日を1日目として数えた日数と並べる
// 使い方: node payday.js 2026-10-20 2026-11-30 2026-12-01
// 引数がなければ例の日付で出す
const DAY = 24 * 60 * 60 * 1000;
function parse(s) {
const [y, m, d] = s.split("-").map(Number);
return new Date(Date.UTC(y, m - 1, d));
}
function fmt(date) {
return date.toISOString().slice(0, 10);
}
// 月末締め・翌月末払い
function monthEndNextMonth(received) {
return new Date(Date.UTC(received.getUTCFullYear(), received.getUTCMonth() + 2, 0));
}
// 受領日を算入した日数(Q&A Q45: 受領した日を算入)
function daysInclusive(received, pay) {
return Math.round((pay - received) / DAY) + 1;
}
// 受領日から数えて60日目
function day60(received) {
return new Date(received.getTime() + 59 * DAY);
}
const dates = process.argv.length > 2
? process.argv.slice(2)
: ["2026-01-01", "2026-02-01", "2026-07-01", "2026-10-31", "2026-11-01", "2026-12-01"];
console.log("受領日 支払日(月末締め翌月末) 日数 60日目");
for (const s of dates) {
const r = parse(s);
const p = monthEndNextMonth(r);
const n = daysInclusive(r, p);
const mark = n > 60 ? " (60日超・月単位の締切なら2か月以内として扱われる)" : "";
console.log(`${fmt(r)} ${fmt(p)} ${String(n).padStart(3)} ${fmt(day60(r))}${mark}`);
}
引数なしで node payday.js を実行した結果です。
受領日 支払日(月末締め翌月末) 日数 60日目
2026-01-01 2026-02-28 59 2026-03-01
2026-02-01 2026-03-31 59 2026-04-01
2026-07-01 2026-08-31 62 2026-08-29 (60日超・月単位の締切なら2か月以内として扱われる)
2026-10-31 2026-11-30 31 2026-12-29
2026-11-01 2026-12-31 61 2026-12-30 (60日超・月単位の締切なら2か月以内として扱われる)
2026-12-01 2027-01-31 62 2027-01-29 (60日超・月単位の締切なら2か月以内として扱われる)
ひな形の例の日付で node payday.js 2026-11-20 2026-12-10 を実行すると、11月20日の受け取りは12月31日払いで42日目、12月10日の受け取りは2027年1月31日払いで53日目でした。
逆に「月末締め、翌々月10日払い」のように、受け取りの日から2か月を超えうる支払日は、問48の扱いに頼れません。外注先への支払日を自分の入金日に合わせたくなる場面はありますが、その場合は前の節の再委託の3項目を明示して、元委託の支払期日から30日以内に収めるのが筋です。
受け取りの日は、納品の形で読み違いが起きやすいところです。Git へのプルリクエストやサーバーへのアップロードで納めるなら、発注書に納品場所を書き、納品したことをチャットで知らせて記録に残しておくと、何日に受け取ったかを双方で確かめられます。
チャットで済ませるときの注意と文面
チャットで明示するなら、7項目を1通のメッセージにまとめて送り、相手の「承知しました」を受けてから作業を始めます。スレッドに小出しにすると、どこまでが明示なのかが後から読めなくなります。
Q&A の問41は、電子メール、チャットツール、SMS、SNS のメッセージ機能で送る方法を電磁的方法として認めています。明示事項をメッセージの本文に書くだけでなく、明示事項を載せたウェブページの URL をメッセージに書く方法も認められます。Google ドキュメントなどに発注書を置いてリンクを送る運用も、この考え方に沿います。
Slack・Chatwork・LINE・Discord・メールに、そのまま貼れる文面です。
〇〇さん
先日ご相談した件、正式にお願いします。
フリーランス法の取引条件の明示として、条件を以下にまとめます。
・発注者: [屋号] / 受注者: 〇〇さん
・発注日: 2026年10月20日
・内容: 〇〇の LP コーディング(支給の Figma をもとに HTML/CSS/JS、1ページ、レスポンシブ)
対応ブラウザ: Chrome・Safari・Edge・Firefox の最新版、iOS Safari の最新版
修正: 納品後2回まで / 含まないもの: 画像加工・原稿作成・公開作業
著作権: 支払いをもって当方に譲渡、対価は報酬に含む
・納期: 2026年11月20日
・納品場所: GitHub の [リポジトリ名] へのプルリクエスト
・検収の完了日: 2026年11月27日
・報酬: 150,000円(税抜)、消費税込みで 165,000円
・支払期日: 2026年12月31日(銀行振込、振込手数料は当方負担)
この内容でよければ「承知しました」とご返信ください。返信をいただいてから着手をお願いします。
明示の義務そのものは、発注者が一方的に示せば果たせます。それでも返信をもらうのは、相手が同じ内容を読んだことを記録に残すためです。
チャットで明示したときの残し方も決めておきます。
- 送ったメッセージをスクリーンショットか PDF にして、案件のフォルダに保存する
- チャットのエクスポート機能があるなら、案件の終わりに書き出す
- 条件が変わったら、同じスレッドで「変更: 納期を2026年11月27日に変更」のように、変わった項目だけをもう一度明示する
チャットのアカウントが止まって相手が過去のメッセージを読めなくなった場合も、受注者から書面を求められたら、発注者は応じる必要があります(Q&A 問43)。発注書の本体を自分の手元に PDF で持っておけば、求められたときにすぐ出せます。
保守・運用の月額契約は「基本契約+毎月の発注」
毎月続く保守や更新作業は、共通の条件を基本契約にまとめ、毎月の発注では「基本契約による」と書けば足ります。毎回7項目を書き直す必要はありません。
規則第1条第4項は、一定の期間にわたる業務委託に共通する事項をあらかじめ書面か電磁的方法で示しておけば、個々の発注では「あらかじめ示したところによる」旨を示せば足りる、としています。保守の外注では、基本契約に報酬の単価・支払期日の決め方・作業の範囲・知財の扱いを書き、毎月の作業依頼をチャットで送る形が組みやすいです。
基本契約に入れる共通事項と、毎月の発注で書く事項を分けると、次のようになります。
| 基本契約(最初に1回) | 毎月の発注(チャットで可) |
|---|---|
| 発注者・受注者の名称 | 発注日 |
| 作業の範囲(更新・バックアップ・プラグインの更新など) | その月の作業内容(「ニュース3件の更新、プラグインの更新」など) |
| 月額か単価(「月額 30,000円(税抜)」「1作業 5,000円(税抜)」) | 作業の件数・時間(単価の場合) |
| 支払期日の決め方(「毎月末日締め、翌月末日払い」) | 作業を終える日 |
| 作業の報告先・納品の場所 | 「上記以外は 2026年10月1日付の基本契約による」の一文 |
| 実費の扱い、知財の扱い |
保守では、報酬とは別に、サーバー・ドメイン・有料プラグイン・メール送信サービスなどの外部サービスの料金がかかります。誰の名義で契約し、誰が払うかを基本契約に書いておくと、外注先が立て替えたまま月をまたぐ、といったずれを防げます。
法の施行(2024年11月1日)より前から続く保守契約も、施行後に更新(自動更新を含む)されたら新しい業務委託として明示が要ります(Q&A 問34)。問34は、もとの契約書に明示事項がすべて書かれていて更新で変わらないなら改めての明示が要らない場合もあるとしつつ、契約書の条項と明示事項の対応を明確にするよう求めています。契約書の末尾に、7項目と条項番号の対応表を付けておくと手早く済みます。
発注書が来ないとき:受ける側の頼み方と相談先
受ける側が発注書をもらえないときは、法律の名前を出して、項目を指定して頼むのが早道です。発注者が忙しくて出していないだけのことも多いので、責める文面にせず、返信しやすい形にします。
〇〇さん
ご依頼ありがとうございます。着手の前に、フリーランス法(第3条)の取引条件の明示として、
次の項目をこのメッセージへの返信でいただけますか。
・業務の内容(範囲・ページ数・修正回数・著作権の扱い)
・納期と納品の場所
・検収をされる場合は、検収の完了日
・報酬の額(税込か税抜か)
・支払期日(具体的な日付でお願いします)
決まっていない項目がある場合は、その理由と決まる予定の日をいただければ大丈夫です。
書面や支払期日を出してもらえず、話し合いで解決しないときは、一人で抱えずに相談先を使ってください。
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営。無料・匿名で相談でき、弁護士による和解あっせんもある)https://freelance110.mhlw.go.jp/ 電話 0120-532-110(平日 9:30〜16:30)
- 公正取引委員会のフリーランス法の特設サイト(法律の内容と窓口の案内)https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/
取り締まりは実際に行われています。公正取引委員会は2025年6月17日、出版社に対し、取引条件の明示義務(第3条第1項)と期日の支払義務(第4条第5項)の違反で勧告を出しました。勧告の文書によると、支払期日などを明示していなかった相手のフリーランスは191名でした。令和7年度(2025年度)は、措置1,552件のうち勧告が10件、指導が1,542件で、原状回復の総額は1,734万円です(2026年6月10日の公表)。
自分の取引が違反に当たるか、契約書の条項がどう読まれるかといった個別の判断は、ここに書いた一般論だけで決めず、上の窓口や弁護士に相談してください。
明日からやること
- 外注に使っている発注書かチャットの定型文を開き、7項目(名称・発注日・給付の内容・納期・納品場所・検収の完了日・報酬と支払期日)がそろっているかを確かめる
- 支払期日が「〇日以内」「翌月〇日まで」になっていたら、日付か「毎月末日締め、翌月末日払い」に書き換える
- 給付の内容に、知的財産権の扱いと「含まないもの」の行を足す
- 決まっていない項目は、空欄の代わりに「理由」と「決める予定の日」を書く
- 継続の保守を外注しているなら、基本契約に共通事項をまとめ、毎月の依頼に「基本契約による」の一文を入れる
出典・参考
- フリーランス・事業者間取引適正化等法 公正取引委員会規則(公正取引委員会)
- フリーランス・事業者間取引適正化等法に関するQ&A(公正取引委員会)
- フリーランス法 特設サイト(2025)(公正取引委員会)
- 令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法の運用状況等(公正取引委員会)
- 株式会社小学館に対する勧告について(令和7年6月17日)(公正取引委員会)
- 政令・公正取引委員会規則・ガイドライン等の公表(令和6年5月31日)(公正取引委員会)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省(委託先: 第二東京弁護士会))